◆解題•その山へ

 サイトのリニューアルをするにあたって新しい作品もいくつか見られるようにしてみた。そのうちの「Towards the Mountain (2013-)」についての経緯などを少々書いておこうと思う。最初に纏めて作品を展示したのが海外だったため、英語のタイトルが先になった。その後、ちょっとベタだけれど日本語をつけた。

 富士山は昔から気になっていて、新幹線は山側を予約することにしている。だから乗車日に曇ってたり雨が降ってたりするととても損した気分になる。眺めているだけでよかっはずなのに、一生に一度は行ってみてもいいかもなんて思いついて、それは10年ほど前に河口湖から撮った写真とずっとつきあっているので、そのお礼参りみたいな気分も上乗せされて、運動らしきことを自主的にしたことがないに等しいにもかかわらず、思いついたのだった。最初は漠然と。
 2013年から毎年富士山に登っている。その年の早春にとある会で、山に限らず世界をまたにかけて活躍している頭脳も体力も超人的な人に、来年くらいに富士山へ登ってみようと思うんですよと話したら、あっさりと「今年登ればいいじゃないですか」なんて言われ、たしか2月かそこらの時分であったため、年内はみっちりと体力増強に励み、ガイドブックにあたり、心の準備もしてからの方が安心だと思いつつも、どうせやりだすのは間際なのだから来年でも今年でも実質一緒、しかも年齢は確実に1つ増えるのだし思い切って今年やってしまおうかと思えるギリギリのタイミングであった。そのあっさり口調がほんとうに簡単そうに思えたことにも背中を押され、どのみち半年後には終っているのだ、今からなら間に合うかもしれないと思ってしまったのだった。思い込みは時に人を強くする。
 その年は、悪いことに世界遺産になったことと重なり、人が大勢で身動きとれないのではないかと不安だったけれど、世界遺産になった年から登るなんてミーハーねえと他人が思いやしないだろうかという余計な心配を抜きにすれば、かえって意外と空いていた。それから3年。今年登って4回目。いったいいつまで登れるか楽しみでもある、などと書いている自分が信じられないけれど、実際そのとおりなのだから仕方ない。もちろん弾丸登山なんてしませんがね。あくまで写真が目的なので、ゆっくりとできるだけ長く滞在することを心がけている(ものは言いよう)。とてもいい山小屋にも出会えた。ひどい山小屋のおかげで。
 その年、連泊で予約していた小屋を出発するとき、不要な荷物を預かってもらえず(といっても着替えくらいなもので、撮影済みフィルムは背負います。全員分を纏めて名前を記入した袋に入れて、あわよくば預かってもらおうと思っていたのだが、にべもなく断られた)同行者の中には富士宮のナマズと言われている男もいるのにいいのかな地元民にそんな態度で、などと悪態吐いたりはしてませんが、それ以外にも感じが悪かったので(トイレに入るとき大か小か聞かれる、朝食に出たゴミも持ち帰らされるなどなど)、ではキャンセルして他を当たるか頂上を早めに退いて下山しようということになって、荷物は預からないがキャンセルするのも全然オッケー(山小屋は基本的にはそういうものらしい)ということで、頂上で他の小屋へ電話をかけたところ1軒目は不在、2軒目がとてもいい感じで、実際に行ってみるとさらにいい感じで、できる限り毎年来ようと思うくらいに良い小屋だった。(ちなみにこの小屋では連泊でなくても普通に荷物を預かっていたようである)。7合ちょっとにある小屋なので、ビールを飲んでも下山に響くこともなく、カレーに温泉玉子はついてるし、ご飯だけでなくお肉や野菜のいっぱい入ったカレーのルウもお替わり自由で、まったく天国のようである。
 
 このタイトルで新たに写真展をするとか、写真集にまとめるとかがいつになるにせよ、登れる限り使い続けようと思っているので、長い付き合いになるかもしれない(願望もこめて)。「その山」が別の山になったりは、たぶんしないと思う。